梅雨入り前後からの上水堤はドクダミに席捲されてしまうのではないかと思うほど、こと
に日陰の堤はドクダミの絨毯に。繁殖力は凄く独特の異臭も強いのですが、私は祖父
から「傷口の消毒や化膿止めなど十種の薬効があり、十薬ともよばれる」と教えられて
育ったせいか憎めません。
耳鼻咽喉科の開業医をしていた祖父ですが、四国の田舎町のこととて風邪や腹痛、
切り傷、打撲、骨折、化膿したおできなどの治療にも追われていました。とても寡黙な
祖父でしたが、医学専門学校卒業後は東京・麹町の名門病院の若先生として将来を
嘱望されていたのに、父親の急死に続いて長兄も日露戦争で戦死したため、 家を継
ぐために郷里へ帰って開業したということでした。
患者さんたちから「先生、先生」と頼られ、尊敬もされ充足していたように見えた祖父
から一度だけ若先生として“もてた時代”の話を聞かされた時のことが、ドクダミを見る
度に思い出されて…。志半ばで果たし得なかった祖父の複雑な気持ちがやっと分か
る年になった私です。
ドクダミと言えば通常は白い4弁のありふれた花をつけ、抜いても抜いても繁茂して悪
臭を放つ厄介な存在でもありますが、一輪一輪は濃緑色のハート型の葉とマッチしてな
かなか清潔感があります。白い4枚の花びらに見えるのは総苞片で、中心部にある黄
色の筒状が花の集まりです。4枚の白い総苞片が十字架に見えることから吸血鬼ドラ
キュラが苦手とする花という言い伝えもあり、魔除けとされることも!
最近、鎌倉橋付近の新堀用水側に白い総苞片が、幾重にも重なった八重咲きのドクダ
ミも殖えてきました。バレリーナのスカートのようでもあり、ドクダミとは思えないほど優
雅です。気をつけて観察してみると、通常タイプと八重咲きの中間タイプもあり、たかが
ドクダミと片付けられないようです。
なおドクダミ(十薬)の薬効はアレルギー性鼻炎、喘息(ゼンソク)、糖尿病、腎臓病、膀
胱炎、整腸、胃腸病、胃痛、腹痛、便秘、下痢止め、婦人病、淋病、高血圧、神経痛、
打ち身、二日酔い、皮膚病、水虫、たむし、あせも、ただれ、湿疹、吹き出物、破傷風、
化膿止め、火傷(やけど)、解毒、風邪予防、癌予防、強壮、胆石症、蓄膿症、痔、動脈
硬化、冷え性、かゆみ止め、熱冷ましなど。