忘れ得ぬ人々& 道草ノート

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道草フォト575 その210 見えない糸に

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   10月最初の日曜日、数日前から金木犀の香りが漂い始めました。先月23~25日
   の奥日光の旅では、中禅寺湖の最奥・千手ヶ浜まで足を伸ばしました。男体山開
   山の祖・勝道上人が造った千手観音像があったことが、千手ヶ浜の由来とされて
   います。この浜に注ぐ外山沢川は ハンス・ハンターが鱒釣りの漁場として自費で
   整備したそうです。その多大な費用もさることながら、一帯の土地を所有している
   輪王寺との借地権交渉に、振り回されたそうです。そうしてハンターが整備した外
   山沢川は、日本のフライフィッシング発祥の地とされています。
   現在は禁猟区になっておりますが、千手ヶ原を蛇行して流れる沢は「水澄む」「秋
   澄む」など秋の季語にぴったりの景観でした。
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   千手ヶ浜へは中禅寺湖の湖尻から路線バスで赤沼まで約25分。赤沼車庫で待つ
   こと40分あまり、低公害バスに乗り換えて25分もかかりました。朝から雨が断続
   的に降り続いていたせいか、赤沼車庫から低公害バスに乗車したのは10人ほど。
   その殆どが途中の小田代ヶ原で下車してしまい、千手ヶ浜で降り立ったのは私一
   人。いささか心細かったのですが、幸い、雨は上がって霧も晴れてきました。湖岸
   に打ち付ける波の音がやたら大きく聞こえて、碧さに吸い込まれそうでした。
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   ふと、足元を見たらナギナタコウジュが咲き乱れているではありませんか。淡紫色
   の花穂がナギナタのように反り返って開花することから、ナギナタコウジュ(薙刀香
   薷)。玉川上水でも以前は商大橋付近で見られたのですが、 ここ数年はお目にか
   かっていません。シソ科の多年草で、長さ 4~5 センチの花穂にモンシロチョウが
   乱舞していました。蝶や花を追っていると、広大無辺に見える自然に一人でいるこ
   とも忘れてしまうから不思議です。
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   林縁にはマムシグサの実が赤々と熟していました。黄ばみかけた下草の中で艶や
   かな赤い実の房にドッキリ!4~5月にマムシでも潜んでいそうな薮の中で、マムシ
   が鎌首をもたげたような姿をしている花も異様ですが、実も毒々しいマムシグサ。
   サトイモ科の根茎植物で、その仲間のミミガタテンナンショウ、ウラシマソウは玉川
   上水にも生息しています。
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   千手ヶ浜に沿って10分ほど歩くと、外山沢川に架かる吊り橋・乙次郎橋が見えて
   きました。千手ヶ浜まで足を伸ばしたのは、今年の7月15日、ハンス・ハンターが
   立ち上げた「東京アングリング・エンド・カンツリー倶楽部」の千手ヶ浜レストハウ
   スが全焼してしまい、その後のことが気がかりで…。見えない糸に引っ張られて、
   ここまできてしまったみたいです。
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   レストハウスは昭和初期に建てられた木造2階建て、延べ床面積約250平方㍍の
   一角にはハンス・ハンターの釣り具や手作りのフライ(疑似餌)、巨大なトラウトや鹿
   の頭のはく製などが展示されていました。同倶楽部解散後はレストハウスの管理人
   ・伊藤乙次郎さんに“退職金”として譲られ、乙次郎さんは漁師として生計を立てな
   がら、建物の維持管理を。林野監視員も務めて後に “奥日光の仙人”とも呼ばれた
   人でした。
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   乙次郎さんが90歳近くで他界した後、嫡子の伊藤誠さん(64)が起居管理していた
   のですが、その日は訪問客のために石油ストーブに点火。戸外を案内している間に
   洗濯物がストーブの上に落ちて発火。火の回りが早く誠さんは熱風に煽られて全身
   を火傷。 宇都宮市内の大学病院集中治療室で、薬で眠らされている状態だと聞い
   ておりました。
   レストハウスの周囲はクリンソウ(九輪草)の群生地としても貴重な存在でした。クリ
   ンソウは元々自生していましたが鹿に食い荒らされてしまうので、誠さんが周囲にネ
   ットを張りめぐらせたところ、一面に可憐な花を咲かせるようになったそうです。
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   ハンス・ハンターは釣りや蝶、高山植物などの趣味に加えて“家道楽”。中禅寺湖畔
   だけでも別荘が5~6棟ありましたが、火災や老朽化で失われてしまい、レストハウ
   スは彼の所縁の最後の建物でした。そんな在りし日を偲びながら、無残な姿をさら
   している焼け跡に近づくと、人影が動いているではありませんか?!
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   伊藤誠さんでした。火事の一報でモーターボートで湖尻の船着き場に運ばれ、そこ
   から救急車とドクターヘリで宇都宮市内の大学病院へ。一命を取り留めたそうです。
   集中治療室で 2週間は意識不明でしたが驚異の回復力で8月末に退院。周囲が
   止めるのを遮って9月15日に初めて焼跡へ。
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   まだ頭皮や左右の腕には火傷の傷みが残っているそうですが、「県から委託されて
   いる雨量計の施設は無事だった!自然の回復力も凄い!来夏には九輪草の群生
   も蘇るだろう」と、前向きな誠さんに出会えてよかった!仙人庵と称しているレストハ
   ウスのあづま屋 (ボート小屋)も火災を免れて、湖畔に築100年近い姿を留めてい
   ました。
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   ハンター愛用の釣り竿は英国ハーディー社への特注品だったそうで、数年前に同
   社の社員が訪れて、「これほどの釣り棹は、現在の職人の技術では作れない」と、
   嘆息していたそうです。伊藤誠さんは小さいながらもレストハウスの再建とクリンソ
   ウの楽園の再生に燃えていました。お元気になられてよかった!でも、この日、私
   が歩いて来た付近で熊が現れ、枝がガシガシにへし折られていたとか!
        南無阿弥陀仏!  下は千手ヶ浜へのイラストマップです。
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by love-letter-to | 2013-10-06 19:10 | 道草フォト575 | Comments(0)