忘れ得ぬ人々& 道草ノート

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25点主義でエイジレス賞

「あなた、何点ぐらいだったら自分に及第点つける?」「さあ、60点なら及第点かしら」。
会う早々こんな質問をしてきたのは武田満佐子さんだ。

東京厚生年金会館の年金相談室長を最後に、約40年の公務員生活にピリオドを打つ
なり、岡山県立備前陶芸センターで3年。さらに竹久夢二の生家の近くの窯元で3年の
修業を終えて、桧原村数馬に窯を築くために転居したばかりの武田さんを訪ねたことが
ある。

江戸時代は法螺貝の巻き止りといわれた地で、元は奥多摩有料道路建設
事務所だったプレハブを借りて引越をした1週間後に、「荷物が片付いたから取材がて
ら泊まりにお出でよ」と、電話がかかった。

今から21年前の初夏のこと。
「狸やヤモリが毎晩遊びに来るから寂しくないよ。アッハハハ」。当時、武田さんは66歳、独り暮らしを貫いていた。「惚れた男も、言い寄る男もいたけどね」。

ここで引き下がったら、備前での修業時代から文通し、「窯を築いたら真っ先に取材に
行きます」などと、殊勝なことを書き送ってきたのが嘘になってしまう。

武蔵五日市駅から数馬行きバスで1時間、終点から歩いて10分ほど。緑が萌える山
襞から谷川のせせらぎが聞こえてハイキングなら絶好の場所だが、こんな所で寝起き
するなんて!いやはや…と息を切らせて辿り着いた夜のこと。

陶芸の取材に入ろうとした矢先に、武田さんが趣味と称して数え上げたのは陶芸の他
にガラス工芸、薩摩琵琶、紙芝居、写経、和裁、洋裁、習字、短歌、俳句、ダンス、日
本料理、フランス料理、中華料理、一輪車・・・と延々。習い事をしてきたのは50を下ら
ない。

絶句してしまうと、「私はね、25点主義なの。何でも25点取れれば及第だと思うことにしているの。そうすると、チャレンジすることが楽しい。毎日が楽しい。年を取るのも楽しい」。
毎日チャレンジ精神で楽しんでいると、病気の方でも避けて通るのか元気印の武田さんだった。

元飯場の殺風景な部屋での寝起きは、さすがの武田さんも心細かったのだろう。
薩摩琵琶や紙芝居弁士用のド派手な衣装をありったけ、壁や窓際にぶら下げて
古着屋の店内のようだった。「インテリア代わりよ。虫干しにもなるし」とケロリ。

骨董屋で見つけた薩摩琵琶も5~6丁ほど立てかけてあり、私のリクエストに応えて、
「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり…」と平家物語の冒頭を弾き語りしてくれた。

肝心の陶芸もプロの陶芸家になったら楽しめない。好きなお酒を飲みたい一心
徳利作りに執着していた。プロと趣味の兼ね合いが難しいと口にしながらも、その後、
備前の焼き〆徳利2点は国際陶芸展に入賞。三軌展と新構造展にも入賞して、
1989年にスターとした第一回エイジレス賞(総務庁)に選ばれた。高齢者が
年齢にこだわらず楽しく充実したエイジレス・ライフを送っているモデルとして。

この道一筋…という方にも多く出会って、言葉では言い表わせないほど感動をもらっ
てきたが、武田さんの25点主義に救われていることも多い。
このブログも「まあ、25点ぐらいで及第点かな」と。

しかし、数馬の元飯場での一夜は怖かった。おどろおどろしい平家琵琶を聞いた後
で、妖怪が纏っているような着物がぶら下がっている部屋。トイレには蜘蛛の巣、鳥
だか獣の蠢く音…まだ耳にこびりついている。
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築200年兜造り茅葺屋根の旅館『兜屋』の上に武田さんの住まいがあった。
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by love-letter-to | 2007-04-01 22:28 | 人間万歳! | Comments(2)
Commented by okufuu at 2007-04-05 10:22 x
忘れ得ぬ人々・・・を読ませていただき一人ひとり
皆それぞれ一本筋が通っていらっしゃって感動しています。
25点主義・・・楽しいで~す!!!
また次は何方かな??楽しみに読ませて頂いております。
Commented by noripdaiana at 2007-04-07 22:31
素晴らしい出会い・・・一生の宝物ですね ! 詳細に記憶なさっていらっしゃるのに感心致します。一生を通じて心に残る
人っているのでしょうが、きっと覚えて無いのですね・・これを機会に思い出して見たいと思います。素晴らしい文章は、
100点ですね ・・・