忘れ得ぬ人々& 道草ノート

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ハルジオンの蕾

道端や空き地に咲いているハルジオンを見るたびに思い出す少女がいる。
ごくありふれた野草だが、蕾の頃はうな垂れてピンクの花びらをチラリと覗かせ愛らしい。
そのうな垂れた蕾にダブってくるのは、庄司紗矢香ちゃんがヴァイオリンを演奏する細い首筋だ。
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11年前の春、私が彼女に初めてあった時は中学1年生だったから、紗矢香ちゃんでいいだ
ろう.その時既にウィーンのシェーンブルン劇場で行われた第8回モーツァルト・ジュニアコンクールで,モーツァルト大賞を受賞して未来に羽ばたこうとしていた。
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府中街道に近い路地裏に軒を連ねていた国分寺市内の小さな住まいで、通された部屋もアップライトピアノに占領されていて、「ここで練習しているの?」と手狭な部屋に目を丸くすると、コックンと頷いた紗矢香ちゃん。当時、身長は135センチ。中学1年生にしても小柄で腕も小枝ツィギーのように細かった。1960年代に彗星のように登場して“ミニの女王”ともてはやされたスーパーモデル・ツィギーを連想して、その名前を持ち出しても紗矢香ちゃんが生まれる遥か昔のことで、小首を傾げるばかりだった。そのtwiggy(小枝)のような紗矢香ちゃんは母親の益美さんによると、中世の町並みを残す古都イタリアのシェナで幼年時代を過ごし、テレビやラジオから音楽が流れてくると割り箸を持ち出して来て、ヴァイオリンを弾く真似をして飽かずに遊んでいたという。割り箸がお気に入りの遊び道具だった。

父親も母親も全く音楽には無縁の家庭だったが、キジアーナ音楽院のコンサートでヴァイオ
リン演奏を見たことがきっかけとなり紗矢香ちゃんの希望で5歳からヴァイオリンを習い始めた。
なのに3~4年は家ではお稽古をすることもなく、両親はちょっとがっかり。特に期待もしなかったが、小学5年生の時に原田幸一郎・桐朋学園音楽科教授に師事してから、ぐいぐいとヴァイオリンにのめり込み天性を覗かせるようになった。

「本を読むのが好きで、物語の世界と音楽がダブって想像が膨らんでくるようになったんです」。おずおずとだが、言葉を選びながら自分の意思はハッキリと伝える紗矢香ちゃん。「どんな本を本でいるの?」と聞いたら、「最近読んで心に残っているのは、ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』とか『シッダルータ』かな。同じ年頃の悩みを持つ主人公が身近に感じられるんです」。悩みなんかなさそうに見えた紗矢香ちゃんだったが、奥深いところを見つめている少女に、ギクッとするほど恐るべきものを感じた。

私のリクェストに応えて、レッスン中だというバッハの『無伴奏パルティータ』を弾いてくれることになった。ヴァイオリンを下顎に構えて弦に弓を当てると、か細いうなじや腕からは信じられないほど力強く豊潤な音色が私の耳だけでなく、鳩尾まで染み渡って全身が耳になったような気がした。
音楽には全く疎いが、再び恐るべきものを感じた。その数年前にサントリーホールで聴いた五嶋みどりの迫力のある演奏姿と重なり、「あなたは世界的なヴァイオリニストになるわ!私は何も取り柄がないけど予感だけは何故か当たるの!」。無責任のようだが確信に近かった。
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それから3年半後の1999年10月、紗矢香ちゃんは第46回パガニーニ国際ヴァイオリン・コンクールで史上最年少、かつ日本人として初めて優勝した。16歳で世界最高峰のヴァイオリンコンクールのグランプリを射止めたのだ!その後の活躍は目も眩むばかりで、五嶋みどりを一躍有名にした世界的な指揮者ズービン・メーターも、紗矢香ちゃんの超絶技巧を難なくこなすテクニック、豊かで甘い音色を絶賛しているという。1999年度都民文化栄誉章にも輝いている。

中3の時、奨学金を得てドイツに留学する前に、西国分寺駅前のカフェ『はるじょおん』で、紗矢香ちゃんのミニミニコンサートが開かれたことがある。20人も座れば身動きできないフロアだが、国分寺市いずみホールに近いせいか音楽愛好家がよく集まる店だった。

常連たちのたっての願いで地元の小さなヴァイオリニスト庄司紗矢香ちゃんの演奏を聴く会が開かれた。ひたむきにヴァイオリンを演奏したその時の紗矢香ちゃんのほっそりした首筋を、ハルジオンの蕾に出会うたびに思い出すが、今や世界的なヴァイオリニストとして活躍している彼女は東洋蘭の逸品と言った方が相応しい。「心を込めて弾けば、ヴァイオリンが応えてくれるの」と話していた。
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現在はパリを拠点に演奏活動をしているが、来る5月11日、東京芸術劇場で開かれる読売日響との共演で
久しぶりに紗矢香ちゃんのヴァイオリンが聴けるのを心待ちにしている。GW中、東京国際フォーラムで開催される『熱狂の日音楽祭』の目玉とされた彼女のヴァイオリン公演チケットは即完売で残念だったが…。



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by love-letter-to | 2007-05-03 10:05 | 人間万歳! | Comments(12)
Commented by 小平のモグラ at 2007-05-03 14:50 x
クリンさんよーこそ!さすがにコーラス歴が長く、コンサート
の経験も音楽に造詣の深いクリンさん。庄司紗矢香さんに
ついても詳しいですね。
今年で3回目を迎えた『ラ・フォル・ジュルネ・ジャポン』の
紗矢香さんの演奏会のチケットは、毎回逃しています。
発売するなり完売だそう。振られっぱなしのモグラです。
Commented by クリン at 2007-05-03 15:43 x
モグラさん! 初めて書き込みさせていただきます。
庄司紗矢香さんをクローズアップしたニュースなど、又チョンミュンフンとの練習の場などテレビで見たことがありましたが、そのような方達と関わっていらっしゃるモグラさんは本当に凄いですね。ハルジョオンを華奢な彼女に譬えて、その後世界的に活躍されているその後の庄司さんを東洋蘭の逸品と譬えられる、そのモグラさんの文学的文筆能力は、お仕事だったとはいえ尊敬の他ありません。凄いです。
  「ラ・フォル・ジュルネ・ジャポン」のチケットの発売は毎年いつごろからなんでしょうね。今年も気がついたときには遅かったです。
    ※ コメントアップに不手際がありごめんなさい!
Commented by ふうさん at 2007-05-03 20:58 x
ハルジョオンの花は今頃になると良く咲き、初夏(5月~6月)になると姫女苑という殆ど同じ菊科の花をよく見かけます。
庄司紗矢香さん・・・のすばらしさを読ませていただき、中学生の頃の紗矢香さんのイメージが(自然の中に咲く、開花前は下向きの蕾のハルジョンの花のから) 最近の東洋蘭の逸品の如くの庄司紗矢香さんの演奏を是非聴きたい思いでいっぱいです。
可愛い中学時代と現在の貴重なお写真を見せて頂きありがとうございます。
Commented by cheery at 2007-05-03 22:21 x
もぐらさん 今回も興味深いお話とても楽しませて戴きました。
音楽には疎いので、全く詳しいことは分かりませんが、
庄司紗矢香さんみたいな方は、産まれつきの天才なんでしょうね。 お写真を拝見しても、小さいときからの言動をみても、他の
人とは少々違って見えますね、栴檀は双葉より芳し・・・・
原田幸一郎先生に巡り会ったことも、何という幸運。
色んな条件が揃って、天才が誕生したのでしょうね。同じ日本人
として、誇りに感じます。頑張って欲しいです。♪♪♪
 
Commented by 小平のモグラ at 2007-05-04 10:07 x
ふうさん、Cherryさんコメントを有難うございました。
あちこちに突っ込んでおいたままになっている写真の
整理、ひいては身辺整理もと重い腰を上げて取り掛かった
のがこの『忘れ得ぬ人々』ブログです。
この際、思い切って整理し処分する覚悟です。
ブログに綴り始めてみると、記憶の整理にもなるみたい。
紗矢香さんは幼児の頃から身近な物を割り箸でこすって
その音を楽しんだり、音の違いを不思議がっていたそうで、
それが天分なのでしょうね。また、本を読んでイメージを
膨らませることで、五線譜のオタマジャクシから曲想を
イメージし、自分のものにして演奏できる力を身につけて
いったのでしょう。言葉を連ねて文章を書くことも、同じ
作業だナと、やっと気付き始めたモグラです。
お互いに“頑張らないけど諦めない”で続けましょう。
今日も五月晴れで、モグラさんも散歩に出かけたく
なりました。ハルジオン(春紫苑)に続いてヒメジョオン
(姫女苑)も咲き始めましたね。似ているけど漢字名も
違うのをご存知でしたか。
Commented by cheery at 2007-05-04 14:35 x
モグラさん バイオリニスト といえば小平にも素晴らしい才能の
方を知っています。芸大の音楽科(バイオリン)を卒業されて
最近まで大学で教鞭を執られながら多くの才能ある若い方を育て
海外で勉強する機会をもつ手助けをされておられました。
気取らないおばさんのように、普段は私にも道で会っても声を気さくに掛けて下さりランチに伺ったこともあります。白と黒のグランド
ピアノが2台もあり流石に、プロの方だとお話を聴くと分かりました。
一日5時間は練習を毎日しなければならないし、台所をしてたのでは、一流にはなれない。とおっしゃってました。プロの世界は
大変だな~と思ったものです。
小平にコンサートホールが無いので高い値段を出して遠くまで
聴きに行かねばならない。小平市民にとってそれは残念な事と
運動をされておられました。多くの方の協力でその後ルネこだいらが出来ました。その方も私の尊敬する人の一人です。
もしかしたらもぐらさんも、その方のこと、ご存知かも知れませんね。
ヴァイオリニストでちょっと頭を横切ったのでつい、長々とお喋りして仕舞いました。
Commented by ふうさん at 2007-05-04 20:03 x
モグラさん 今日多摩テックの方に娘と孫といきまして、多摩テッククの所からクアガーデンの温泉まで歩きましたら、山の丘陵に沢山の姫女苑と春女苑の花が咲いておりました。カメラにおさめてきました。モグラさんの写真とおなじでした。その蕾をみて紗矢科さんの天才少女を思い出しました。
天才の方は努力もあるがちいさい頃から光るものをモグラさんは感じていらっしゃったのですね。よいお話を有り難うございました。
Commented by 小平のモグラ at 2007-05-04 21:09 x
ふうさんはお嬢さんとお孫さんの3世代で多摩テックに
いらしたとか。多摩都市モノレールができて足の便がよく
なりましたでしょ。
私は今日、息子一家から少し早めの母の日プレゼントを
もらいました。明日から上の高2の孫はスイスへ研修旅行。
息子は6日から中国へ出張だとか。
そうそう、今日、あかしあ通り開通以来約40年ぶりに、並木
のアカシアに1本だけ花が咲いているのを発見!嬉しくって
ルンルンです。
Commented by ふうさん at 2007-05-05 19:35 x
モグラさん高2のお孫さん スイス研修 息子さんは中国出張で世界的にご活躍で頼もしいですね。
40年ぶりアカシアに花が咲いた・・・なんて嬉しいですね。
モグラさんは多摩川上水の野草の研究や樹木のjことにお詳しいと聞いております。色々教えてください。
Commented by kikue1017 at 2007-05-05 23:52
モグラさん
もうそんなに大きなお孫さんがいらっしゃるのですか?
私などまだ小さい孫で、マゴマゴしているので、きっとブログも
幼稚でおかしい事と恥ずかしくなりました。
何となく書いているだけですから、反省してしまいます。
モグラさんのブログは、本当に楽しみでもあり、きちんとその人の
様子がわかり、「凄い方々と関わりがおありなんだ・・・」とじっくり
読ませて戴きました。
又楽しみにしています。
ブログのテーマについても、アドバイス宜しく御願いします。

お尋ね
花の名前等わからない時はインターネットの「花図鑑」で調べたり
されるのですか?
花(野草)等は特になかなか名前が分からないので、種類とか色とか、探し当てるのが大変だとおもいますが、植物博士のモグラさん
が、もしわからない時は、どの様にしていますでしょうか?
Commented by 小平のモグラ at 2007-05-06 10:10 x
kikueさんて、どなたかしら?とワクワク検索したら、“おくさま”
でしたのね。しばらくです。
ピカピカのシャトーのような新居に可愛い盛りのお孫さん。
幸せ幸せでブログにも、そのハッピーな日々があふれて
いますね。ちょっと妬けるぞ!
私もかつて孫たちの週末保育ママさん時代がありました。
我が家は土日のいずれかは必ず託児所となり、ベビー
ホテル兼息子一家の食堂もやり、仕事との両立でヒーヒー
言ってました。
お訊ねの植物の名前の検索は主に『草花の名前質問掲示板』
を利用しています。私のHPの『玉川上水草樹の花』の50音
目次にも身近な花約350種を掲載しています。
Commented by kikue1017 at 2007-05-06 14:19
小平のモグラさん!
早速コメント有難う御座いました。
今日から・・・・・と思い近くの野火止用水を歩いて来ました。
野草が可愛く咲いていましたので写してきましたが、名前が
分かりませんでした。
<『草花の名前質問掲示板』>から、分かりました。有難う御座いました。   それに<HPの『玉川上水草樹の花』の50音
目次にも身近な花約350種を掲載しています。>の案内のページ
をじっくり拝見しまして、素晴らしいHP(役に立つHP)に感心しました。さすがですね!  これからも、参考にさせて戴きます。
これだけきちんと整理されるのは、並大抵のご苦労ではなかった事と思います。  
時間が無くてもお孫さん達を預かったりされた様子を伺い、
『私だけが忙しく時間が無い!』と嘆きKSNCの皆さんが優雅で
とても羨ましく思っていましたので、反省です。
『隣の芝生は・・・・』の言葉の如くでしょうか?
自分は皆さんに比べて大変で苦労している・・・と思い込んで
いるのです。これからは、愚痴らず出来る事から、あせらず片つけて
行くようにします。
雨音を聞きながら、パソコンの前に居る事は、幸か不幸か?