忘れ得ぬ人々& 道草ノート

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アマゾンのモンテクリスト伯 その①

            ◇ 遙かなるアマゾン ◇
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4月も末を迎えると南米アマゾン流域では毎日水位が5センチ、6センチと下り、それまで水に没していた低地や島が次第に姿を現してくる。12月から5月は雨季、6月から11月は乾季で、雨季と乾季ではアマゾン川の水位は10メートルも上下する。

アンデス山脈標高5000メートル級の高地、ボリビア、ペルー、コロンビアなどの周辺諸国から流れ込んで来る1000を超える河川がブラジル国内に入って合流し、大西洋岸に注いでいるのがアマゾン川である。f0137096_0363352.jpg

全長約6400キロ、最大川幅は340キロに及んでおり、日本列島が丸ごと5~6個分も入ってしまう規模だ。クィーン・エリザベスⅡ号クラスの豪華客船が就航しているそうだから川というより海に近いだろう。6400キロの流域には堤防もなければ橋も一つとしてない。

◇ 16歳でアマゾン開拓に ◇
…と書くと、「エーッ!アマゾンにも行ったの?」と思われるかもしれないが、残念ながら何度かのチャンスを逸してしまった。しかし、アマゾン河口の都市ベレンに住む安井宇宙さんとは10年あまり文通を通して、宇宙さんのアマゾン開拓史『アマゾン開拓は夢のごとし=草思社刊』をまとめるお手伝いをした。

安井宇宙さんの宇宙は本名である。昭和9年(1934)16歳の時にアマゾン開拓に赴いて以来、アマゾン流域に70余年も暮らし続けている。“アマゾンのモンテクリスト伯たらん”と、かつてはジュートを手広く栽培し、広大なアマゾンを舞台に交易会社を経営していた安井宇宙さん。今年1月末で90歳を迎え、アマゾンにおける日本人開拓移民一世の恐らく最後の人であるまいか。

昭和初期に『日本高等拓殖学校』の学生を主として、広大無辺のアマゾン開拓に挑んだ日本人がいたことは歴史から忘れられている。宇宙さんは同校の4期生だった。

           ◇ 52年ぶりに帰国してひょっこり ◇
f0137096_039010.jpgその宇宙さんが、渡伯(ブラジルの当て字・伯剌西爾から伯国とも)以来52年ぶり二度目の帰国をした1987年の夏、知人の紹介で立川駅ビル9階の社をひょっこり訪れた。咄嗟に「アマゾンから来ました」と言われても…社内は???

たまたま居合わせた私が安井宇宙さんのアマゾン開拓移住史を聞くはめになった。全く出会いとは不思議なものですね。想像を絶する自然の驚異との過酷な闘いの半世紀を絵に描いており、それらの作品を出身地の多摩地区で開きたいというのが、宇宙さんの突然の訪問の要件であった。それも1年後に!

地球の反対側に住んでいる人と1年後の約束なんか…信じたくても信じられない気持ちであったが、宇宙さんは朝日ギャラリーの予約をして引き上げられた。その当時、宇宙さんは68歳。気が変わったら困る。身の上に何かあったらどうしよう。まだFAXもメールも普及前であったから、定期的に手紙で宇宙さんと連絡を取り合った。

           ◇ 安井宇宙展~アマゾン開拓半世紀 ◇
f0137096_0435819.jpgところが宇宙さんは約束通り、1年後の1988年7月に信子夫人と来日して『安井宇宙展~アマゾン開拓半世紀』が無事に開催された。アマゾンに半世紀以上暮らしても古武士の風貌通り、律儀な日本人気質を堅持していた。

16歳でアマゾンに向けて渡航する時に餞別として希望したのが油絵の具一式だったそうで、還暦を迎えた頃から絵筆を握るようになったとのこと。ベレンでは個展を毎年開催、パリの『サロン・ド・ドートンヌ展』にも出品している。

アマゾンに暮らす画家のアマゾンの絵”ということで宇宙さんの初個展は会期中に1000人近い人が訪れた。「やっと青少年時代の夢がかないました。昭和初期にアマゾン流域の開拓に挑み、胡椒やジュート栽培で産業らしい産業を成功させたのは日本人移住者です。その足跡を母国の人々に知って貰いたかった」と、宇宙さんは上気していた。

           ◇ 絵だけでなく文章でもアマゾン開拓を ◇
f0137096_0483797.jpg黄色いお汁粉のような泥水の荒波を漕ぎ進むボート、真っ赤に染まった空と流れに木の葉のように浮かんだ大型船、腰まで水につかりながら作業する半裸の男たち、暗雲の迫る大地を疾走する牛の大群、川とも陸地とも見境のつかない大自然…約40点の宇宙さんの作品はとにかく異色でスケールが大きかった。

連日、会場で作品に描かれている風景や働く人たちの解説をしている宇宙さんの話が面白くて、私は「アマゾンでの体験を文章でも綴ってみませんか」と声をかけた。その場でははっきりした返事はなかったが、「いずれ挑戦してみます」と言い残してアマゾン河口の町ベレンに帰って行った。4年後に2度目の個展を開催したいと会場も予約して…。

           ◇ ひたすら原稿待ち ◇
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宇宙さんがベレンに帰ってからも月に1~2回手紙を交わしていたが、アマゾン開拓史については触れられていなかった。日常はポルトガル語を使っているそうだから日本語で文章を綴るのは気が重いのかな…。淡い期待の半面で、文を綴ることの難しさを私自身毎日味わっているだけに、プレッシャーをかけないようにしていた。でも私自身が宇宙さんのアマゾン開拓に出かけた経緯や状況を知りたくて、心のどこかで手記が届くのを待っていた。

           ◇ 日本人ブラジル移住100年 ◇
明治41年(1908)に移民船笠戸丸に乗った初めての日系移民がブラジルに到着してから、2008年の今年で100周年を迎える。『日本人ブラジル移住100周年記念』として様々な式典イベントがサンパウロを中心とした各地で計画されているが、アマゾン開拓については殆ど知られてない。

同じブラジル国内とは言え、サンパウロを中心とした南伯(ブラジル南部地域)とアマゾン流域では、気候風土をはじめとして別の国といっても過言ではない。サンパウロからアマゾン河口の都市ベレンまで飛行機で6時間かかる。成田からシンガポールまでのフライト距離に等しい。南伯の日系人にすらアマゾン流域の日系人の存在は知られてないそうだから…。宇宙さんのアマゾン開拓のあらましは次回に。
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by love-letter-to | 2008-04-21 00:51 | 人間万歳! | Comments(4)
Commented by cheery at 2008-04-22 13:54 x
Commented by cheery at 2008-04-22 11:31 x
モグラさん おはようございます♪

遙かなるアマゾン こんなに近代化しているのですか?
驚きました!素敵な写真ですね~~ それに 絵も本物を見たい
気がしました。迫力がある絵ばかりで情熱が伝わってきますね~。
パイオニアは、並大抵の精神ではないでしょうね~~

大昔、高校の教科書でみたのですが、アメリカが開拓しようとした
アマゾンを遂にギブアップした後、日本人(忍耐強い)たちが成功
させたとか・・・ 今のひ弱な若者では無理かも知れませんね~

次回の宇宙さんのアマゾン開拓のお話楽しみです。
Commented by love-letter-to at 2008-04-22 21:08
cheeryさん、コンバンワ!
アマゾンの奥地は最後の秘境の一つと言われていますが、
河口の都市ベレンは高層ビルが林立する大都市だそうです。
この都市のCASTELO BRANCOという通りの一角に
安井宇宙さんは住んでいます。今年の1月で91歳になられ
ました。私も熱帯アマゾンの厳しい気候風土を想像して
しまうのですが、宇宙さんは「日本に住むのもアマゾンに
住むのも同じですよ」と、手紙には書かれていました。
でも、一時期は一夜にして貨幣の切り下げで物価が2倍
以上にもなったそうです。大正生まれで宇宙という実名で
すから、きっと当時からグローバルな人だったのかも。
昨今は宇宙くんなんて名前の男の子は珍しくないけれど…。
Commented by ふうさん at 2008-04-24 22:05 x
もぐらさん こんばんは
広大なアマゾン流域の開拓住民として活躍なさいました安井宇宙
さん(お名前からして当時 ”宇宙”とは)
とても進歩的なお名前ですね。
アマゾン開拓の半世紀・・・ご自分で書かれた絵の中に出ている
力強い表現力を感じさせられます。
当時16歳でアマゾン開拓として活躍なされた偉大な安井宇宙さん
に乾杯!!! 良いお話と絵をありがとうございます。
Commented by 小平のモグラ at 2008-04-24 22:55 x
ふうさん、コンバンワ!毎度コメントを頂き恐縮です。

日常は多摩地域をほっつき歩いていた私ですが、アマゾン
のように遠く離れた地に住む安井宇宙さんのような方とも
巡り会う機会があって、ご縁が今日まで続いているのが
我ながら夢のようです。

私も宇宙さんに出会うまで、アマゾンに日本人が移住して
一大産業を起こしたことなど全く知りませんでした。
宇宙さんらの少し前kの時代には、河口近くのモエマという
地域で胡椒の栽培に成功した日本人移住者もいました。
その胡椒栽培のリーダーが女優の小山明子さんの父上です。
最近の小山さんはご主人の大島渚の介護に積極的に取り
組んでおられるのはご存知の通りで、きっと父上の粘り強さを
引き継いでおられるのだと思います。
地に埋もれている歴史を探っていると面白いです。
それではまた…。