忘れ得ぬ人々& 道草ノート

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皿の上の花梨

       ◇ 花梨の絵との出会いまで ◇
画廊に入るなり目に飛び込んできたのが、下の花梨(かりん)の絵だった。2000年の3月21~30日、国分寺駅南口の次男画廊で開催された池田光(こう)さんの個展『身近なものたち』の会場でのことだった。
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それまで池田さんとはお会いしたことはなかったが、亡母から池田さんのことはしばしば耳にしていた。母の知り合いというよりも通院先の患者仲間で、待ち時間に顔見知りになったそうだ。

母も池田さんも腰痛を抱えており、年頃も近かったので自然に口をきくようになったらしい。ある日、「池田光さんは、あなたからハガキを貰ったことがあるそうで、感激してまだ取ってあると話していたよ」と、母から聞かされた。

       ◇ 心当たりのなかった池田さん ◇
池田さんって、どの池田さんかなあ。取材でお会いした記憶はない。コーラスグループや絵画サークルなども数多く取材しているから、そのグループのメンバーだったかもしれないが、そうなるとお手上げである。とても一人一人のお名前や顔は覚えていられない。

一時期、読者投稿欄を担当していたので、投稿者に問い合わせのハガキや投稿の礼状を差し上げたことも多い。しかし、書いたら最後、忘れ去ってしまっている。
その後、池田さんは油絵を長年描いており、作品展にも毎年出品していると母から聞かされても、ふんふんと鼻先で返事をして、その場を取り繕って済ませてきた。

足腰の衰えが進んだ上に、段差の多い我が家の住宅事情も重なって、母は通院介護に便利な習志野市内のマンションに転居した。私の弟夫婦と同じマンションの別室で、「冬でも晴れた日の日中は暖房がなくても過ごせるわ」と、半ば独立して老後の日々を穏やかに送っていた。

それでも住み慣れた小平を懐かしみ、月に2回、訪ねるたびに母は「池田さんはどうしているかしらねぇ」と、繰り返すのだった。

       ◇ 魅了された花梨の絵の作者と ◇
母が転居して3年あまり、2000年の春先に池田さんから個展の案内状が母宛に私の元に届いた。その案内状を手にして次男画廊を訪ねた私は、入口付近に展示されていた『皿の上の花梨』に釘付けになってしまった。

F4号の小品だが、シンプルで力強いこの作品に惚れてしまった。皿の上に花梨が1個。大胆なタッチで花梨に魂を注ぎ込んでいるように思えた。

花梨の実は無骨で硬くて、そのままでは酸味と渋みがきつくて食べられないが、部屋に転がしておくと、日を追うにつれて香りが甘くなってくる。
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池田さんとも初対面のような気がしなくて、近況や母から聞かされたことを話題に小半時を過ごした。再び、花梨の絵の前に立ち、じっと見詰めていると池田さんは「私もその作品が一番好き!」「そんな好きな作品を手放してもよろしいんですか?」

「あなた、私はもう先が見えているのよ。絵の嫁入り先があれば喜んで!これから先は身軽になって80の坂道を下らなければ足腰が立たなくなってしまうわ」ということで、譲って頂くことになった。

池田さんは油絵を始めてかれこれ半世紀になるとのこと。「素晴しい師、よき仲間に恵まれて楽しんで描いてきた主婦の趣味というより道楽ですから」と、あまり画歴のことは口にされなかったが、「一水会」に所属し、女流画家協会展にも30数回出品されていた。
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展示されていた100号の太作『夕陽に座す』から4号まで40点あまりは、いずれも花瓶にさした花や食卓のフルーツなど身近な素材に絵心がフツフツ。絵のことは分らない私にも池田さんのシャープな感覚と、情熱がアンサンブルなって広がり、立ち去り難かった。

「お母さまによろしく!」「母も見たかったと申しておりました。譲って頂く絵は母にも見せます」と、約束をして分れた。

       ◇ 『皿の上の花梨』を毎日眺めて ◇
後日、池田さん自身がショッピングカートを引っ張って、届けに来て下さって以来、『皿の上の花梨』は私の仕事部屋に掛けてある。毎日眺めている。毎日眺めても飽きない。「杏一益、梨二益、カリン百益」とも言われるそうで、池田光さんの花梨の絵も私には沈静効果やリフレッシュ効果、癒し効果があり、ボーっと眺めていると眼精疲労からも解放してくれる。

以前、花梨の実を3~4個頂いた時、蜂蜜漬けやジャムにと輪切りにしようとしたら、硬くて硬くて…。包丁で決闘するような事態になって散々な目にあったことも懐かしい。そんなノスタルジーも花梨にはある。

皿の上の花梨』を見て「さんに再会したみたい」と涙していた母が逝って3年半あまりになるが、その後、池田光さんはどうしておられるだろうか・・・。
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by love-letter-to | 2007-12-15 22:15 | 尋ね人 | Comments(12)