長持ちしていた近隣の今年桜も、昨日の花散らす雨でいささか色褪せて、花吹雪、
落花へと移ろい始めました。平安期以降から「花」と言えば「梅」に代わって「桜」を
指すようになり、花の代名詞に。その華やぎに魂が奪われそうになり、儚さや潔さ
に加えて樹皮の風情や枝ぶりも日本の情緒そのもので、様々な詩画に描かれて
います。
私は花見客の賑わいや笑顔と、満開の桜に酔いしれながら歩くのが好き!今年も
満開の頃、小金井公園と小平市中央公園を訪ねてみました。どちらも週末を避けた
せいか、夫婦や親子づれでのんびりと花見をしたり、ブルーシートの車座でも花見
酒やお弁当を長閑に楽しんでいました。
朝桜、夕桜、夜桜、老桜、花明り、花冷え、花嵐、花散らす雨、花吹雪、花筏、葉桜
…など桜に寄せる季語も多く、名残りの桜を見て歩くのも愉しみです。染井吉野も
老木となると枝咲きが地に触れるほど垂れ下がり、ありったけの花をつけていまし
た。桜というのは、ほどほどに咲くということは知らないようです。
全身を包み込んでくれるような優しさも、数歩近づけば桜の精の妖気に圧倒されそ
うになることも。古来、名木とされる桜の木の下には人の屍が埋もれており、その精
を吸って樹齢を重ねているという伝説も各地に残されていますから。
上水路では小金井橋の拡張工事が終わり、たもとに大正14年9月に建立された「名
勝小金井桜=大正13年10月国の名勝指定」の碑が再び見られるようになりました。
一辺24センチの角柱で高さ2,4メートル小松石製。絵図入りの説明板も新調されま
した。その近くには岩手県北上公園から里帰りした小金井桜の後継苗木も植樹され、
新芽が伸び始めていました。2~3年後には花を咲かせるそうです。
その名勝小金井桜は、芽吹きと開花が同時進行する山桜で、“青芽”種と“赤芽”種
があり、ことに“青芽”種の清楚さには惚れ惚れしてしまいます。小金井橋近くの273
番のナンバープレートを付けた桜は、交通量と排気ガスのせいか木は貧弱ですが、
“青芽”種は大きく美しい花をつけていました。
一本でも全山の桜を見るような大木もあれば、海岸寺門前では滝を思わせる枝垂れ
桜もあり、西行の短歌「願わくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月の頃」が思
い出されました。西行の享年は73歳で、この歌は60台半ばの作といわれていますか
ら、死に臨んで詠まれたものではないそうですが、如月(旧暦2月)、望月(15日)と所
望した通り1190年2月16日桜の盛りに亡くなったとのこと。