青梅宿古式ゆかしき雛訪ね
鴻巣市の日本一高いピラミッドひな壇(31段高さ7m)、河津桜と伊豆稲取・雛の吊る
し飾り、目黒・雅叙園の百段雛まつり~みちのく雛紀ほか、各地で盛大な雛祭りや雛
巡りが開催されていますが、青梅市の古い町並みの一角にある歴史資料館「青梅宿
津雲邸」の雛まつりは、宮家や格式の高い公家などで秘蔵されていた有職(ゆうそく)
雛、初産 (ういざん) 人形、稚児人形、精巧な雛道具の制作で名高かった上野・池之
端の七澤屋、日本橋・黒江屋の逸品コレクションなど、他では見られない雛飾りが公
開されています。きらびやかでなく、雅という表現がぴったりの雛飾りです。
上は平安時代からの宮中、公家の風俗を忠実に縮小して制作された内裏雛と五人
楽人です。五人囃子でなく 雅楽奏者の姿です。飾り方も旧来通り、男雛は左で女雛
は右に。戦後、昭和天皇が外国から国賓として招いた歓迎式典で、欧米風に男性は
右に 女性は左側に立つように改めたことに倣って、現在は雛飾りも男雛と女雛の位
置が入れ替わったそうです。関西では現在も古来通り飾られることが多いとか。
初参(ういざん)人形は、宮家の子女や能・狂言師の子息が初めて宮中に参内した記
念に天皇から下賜された人形です。左の稚児輪に髪を結い緋縮緬の小袖袴姿は宮
家の子女に。右のおかっぱ頭で裃袴姿は能・狂言師の子弟に賜れたもの。
どちらも明治初期に制作されたもので、それぞれ一体ずつは国立博物館と横浜人形
の家で所蔵されていますが、二体揃っているのは津雲邸だけだそうです。後ろの金屏
風も源氏物語の一場面が描かれている逸品です。
稚児雛一対は有職雛に属しますが、単に宮家女児の初節句を祝うだけでなく、富裕
層の女性が楽しみとして 所有していた例もあります。江戸後期から末期の作で、幼
い顔が愛らしく朱塗りのお膳一式と飾られていました。
津雲邸の雛まつりは七澤屋や黒江屋の雛道具のコレクションも見どころです。元は
応接間だった1階洋間に展示されているのは、庄内藩主家の娘が小倉藩主家に嫁
いだ際の嫁入り道具の雛型一式で、黒漆に金蒔絵の長持や箪笥、お膳、古伊万里
の皿や鉢、ガラス器などミニチュアといえど精巧で美しく、ため息が出てしまいました。
1円玉より小さいお皿や鉢にも現物と同じ絵柄が焼き付けられています。嫁入り道
具をお披露目する代わりとして、その雛型を誂えたと伝わっています。
多摩川を見下ろす地に建つ津雲邸は昭和6~9年、約700坪の敷地に地元出身の
代議士・津雲國利(1893~1972)が建造した邸宅で、純和風2階建ては、京都から
宮大工を招いて地元の大工や石工、建具職などの協働により建築。政財界の要人
もよく訪れたという各室の柱や欄間、天井、書院などの繊細で凝った細工も見どころ
です。
國利氏は古美術に造詣が深く、骨董屋から 鑑定を頼まれるほど。22年も政界で活
躍してきたので上層階級とも付き合いが多く、所蔵している仏像や骨董など、持ち込
まれる機会が多かったそうです。そうした縁から由緒ある雛飾りのコレクションも増え
たとか。元は書斎と居間にしていた和室でお抹茶と和菓子セット、コーヒーとケーキ
セット各500円も。
青梅駅から青梅街道を東へ徒歩7~8分。住吉神社の向かいの路地を50㍍ほど下
った石垣が目印です。0428・27・1260 津雲邸。